STADIAは成功するのか?ネットワークエンジニアが考える

2019年3月30日

GoogleからSTADIAというゲームのストリーミングサービスが発表されました。

ユーザはゲームやゲーム機を持っていなくてもサーバ上で動作させたゲームを遠隔地からストリーミングでプレイできるようになるものです。

ストリーミングゲームサービスという発想自体は今までにも出ていて、既にソニーはPlayStation Nowというサービスを展開しています。

今回はGoogleがサービスを発表したことで話題になっていますが、果たしてSTADIAは成功するのか?

その課題をネットワークエンジニアの視点から見ていきたいと思います。

課題

トラフィック事情

現在、夜のピーク時のトラフィック事情は深刻です。

YouTubeやAmazon Prime Videoといった動画配信サービスが盛況で、夜のピーク時のトラフィック事情は悪くなる一方です。

仕事から帰ってから動画を見ていると画質が荒くなったり、動画が止まってしまったりした経験をお持ちの方はたくさんいると思います。

STADIAも昨今のゲーム事情から言うとFHD(1920x1080p)以上の動画を送信するでしょうから、ユーザの元まで十分な帯域が確保されていないと満足なストリーミングはできないと思います。

そのような状況の上にさらにSTADIAのトラフィックが加わりますが、現状を鑑みると快適な状態でのゲームはプレイできない可能性が高いです。

十分な帯域が確保できない環境では低画質のストリーミングでしょうから、ゲームをプレイする側として文字が読めないとか敵が認識できないとかいった問題が発生することは十分に予想できます。

あと気になるのは回線切断時や瞬断時にどういう挙動となるのかも気になるところです。

いちいちゲームがリセットされるのか完全にフリーズした状態で再接続時まで待機していてくれるのか、ユーザ側の切断状態で一定時間はゲームがサーバ上で進行してしまうのか、スタンドアローンなら他人に迷惑は掛かりませんがオンラインプレイの時はどうなるのか等々、気になる事がたくさんあります。

パケット遅延

通信はパケットを送り出してから届くまでに時間がかかります。

物理的な距離があると離れれば離れるだけ時間がかかります。

パケットを送り出して応答が返ってくるまでにかかる時間をRTT(ラウンドタイムトリップ)といいます。

光の速度で通信したとしても地球の裏側に行って帰ってくるだけで133msかかります。(光は1秒(1000ms)に地球を7周半進むので、地球1周(地球の裏側に行って帰ってくるのは1周分に相当)にかかる時間は1000ms/7.5=133.333…ms)

STADIAはこの物理的な距離の遅延をなるべくなくそうと、一番近い拠点のサーバと通信を行うCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)の仕組みでサービスを展開すると思います。

そしておそらく日本でのサービスは東京にサーバが置かれ、STADIAのサーバと通信するだけの遅延だけで、東京のユーザは数msの遅延、地方は東京と距離が離れれば離れるほど遅延し、例えば九州や北海道は30ms程度は遅延すると思われます。

地方のユーザはRTTだけで2フレームほど常に遅延し、これは光の速さを超えられないという物理的に絶対に超えられない壁となります。

実際にはユーザの入力が画面に反映するまでに、ユーザの入力を受付けてから通信を送り出すまでの時間、先ほどのRTTの時間、STADIAがゲームを処理する時間、STADIAのサーバがゲームの音と映像をストリーミングにエンコードする時間とユーザの端末がデコードして端末に表示するまでの時間がかかります。

ストリーミングのエンコードにどれほど時間を要するのか分かりませんが、YouTubeやニコ生などのライブ放送を見ていると数秒は遅延しているように感じられます。

その遅延を1秒まで縮めたとしてもゲームとしてはラグラグでストレスマックスでプレイどころではないと思われます。

サーバ側に専用のハードウェアエンコーダを開発して数十msの遅延に抑えられれば、ワンチャンあるかなという個人的な実感です。

維持費とサービス料金設定

STADIAを維持して運用するのにGoogleが負担する費用は莫大だと思いますが、それを回収できるだけの売上になるかは疑問が残ります。

月額いくらになるかは分かりませんが2000円を超えたら多くの契約者は期待できないと思いますし、かといって一人月額2000円以下で費用をまかなえるかというと難しそうというのが私の直観です。

5000円とか1万を超えるとまず契約する人はいないと思います。

1000円以下だと多くの人が契約すると思いますがサービスは短命に終わりそうです。

STADIAの損益分岐点がどのくらいの値段になるのか気になるところです。

ゲームの初期ラインナップ

サービス開始時のラインナップの充実度も重要だと思います。

遊び放題といっても自分のプレイしたいゲームが無いのであればサービスを契約する理由がないからです。

幅広いユーザに訴求するためには世に出たPCゲームをほぼすべて遊べますくらいのインパクトがあれば最高ですが無理だと思います。

どこまで初期ラインナップを増やせるかもSTADIAの重要な課題の一つです。

まとめ

ネットワークエンジニアからすると、さらにネット上のトラフィックを増やしてピーク時の環境悪化を促進するサービスはやめてくれと言いたいところです。

ゲームのストリーミングサービスも需要があるのかどうかもはなはだ疑問です。

光の速度を超えられない通信遅延問題があるので、このゲームストリーミングサービスの分野でシビアな入力を要するゲームはまず無理、まともに遊べるジャンルは限定的という制限が未来永劫つきまといます。

個人的には実機とゲームストリーミングサービスで適しているゲーム内容で住みわけがされていって、将来的にはどちらも残るのではないかと思っています。

光の速度を超える量子的な情報伝達手段が出てくれば(そのようなものが実現可能かどうかは知りませんが)、ゲームストリーミングサービスが主流になると思います。